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Channel: ジミー矢島の日記 | 高円寺ライブハウス ペンギンハウス
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高校野球といえば (後)

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その日・・・7月の下旬か8月の初め頃の甲府盆地の暑さといったらそれはすごいものだ

その真夏日の甲府の晴れ渡った空の下、僕は車を運転して試合が開かれている「緑ヶ丘野球場」OLYMPUS DIGITAL CAMERAへと向かった

球場に着くと試合はすでに始まっていてもう中盤 、僕はその高校の応援席のスタンドに座った すでに選手の親や高校の応援団などが熱烈に声援を送り続けていた

 

 

 

 

Hはがんばっていた 確か4回あたりに相手の3番バッターにソロホームランを浴びただけであとはなんとか無失点に抑えていた 試合はいよいよ終盤近く こちら側の打線が安打とフォアボールでなんとか1点返し同点、いよいよ9回の裏 2アウト 向こう側は走者2、3塁 バピッチャーッターは強打者ではないがなかなかの技者だ ここで1点取られればサヨナラ負けになってしまう なんとしても抑えねば・・・Hの顔が緊張と気合でゆがむ こんな表情をした彼を見たのははじめてだ Hがボールを投げる・・・バッターは・・・バントだ!

ボールがコロコロとピッチャーの前に転がってくる 3塁ランナーが決死の勢いでホームベースにボール突進する Hはボールを掴む そのままホームへ送球・・・キャッチャーがミットを構える タイミング的には充分間に合う このランナーを刺せれば延長線に持ち込める・・・みんながそう思ったはずだ ところが・・・

 

どうしたことかHの送球は大きくトスになってしまった 多分焦る気持ちがとっさの反射を間違ったほうへ動いてしまったのだろう ボールはゆっくりと弧を描いてキャッチャーのほうへ・・・早く!みんながそう思ったに違いない しかし・・・ボールがキャッチャーミットに収まるのとランナーがホームにヘッドスライディングするのが同時だった

そして球審の手が横に上がる「セ~~フッ!」

サヨナラ負け・・・なんて悔しい結末だ 選手たちはもう全員号泣している ホコリまみれの顔が涙でシアイドロドロになってる 親たち応援席もみんな泣いている 気がつけば僕まで泣いていた そして叫んでいた

「お前ら、よくやった!エラいぞ~!」

 

さて・・・「いい話」というのは実はここからなのだ

野球部の3年生はこの大会が終わると同時に引退となるのだ 甲子園に勝ち進めばもちろんそれはもっとあとになるのだが・・・負けた時点で彼らの3年間の野球人生がとりあえニュウドウず終了する

 

そして、彼らはおそらく野球を始めてから初めてとなる「ゆっくりとした夏休み」を過ごすのだ

多くの選手たちは実家に帰る ほとんどの子たちが他県からやってきているからだ

 

そして新学期が始まった いつものように学生食堂に活気が戻ってくる

すると、大勢の生徒を掻き分けるようにして向こうから僕の方へやってくる見慣れない生徒が1人

ニコニコ笑ってるが・・・誰? そこで僕はやっと気がついた 「Hか!?」

「おっちゃん、久しぶり!」ちょっと照れくさそうに笑うその顔はたしかにHだった

だが、僕は彼のあまりの変貌ぶりに愕然とした

髪が伸びている 野球部の選手は全員丸ボウズが当たり前 引退してはじめて髪をのばしていいことになる その少しばかり伸びた髪をムースでちょこっと撫で付けて、着ている服もなんだかお洒落だ その当時はやりの「ラッパー風」の衣装・・・でもなんかイマイチ似合わない(笑)

でも僕が一番驚いたのは彼の顔だ 色が妙に白くなっている あきらかに帰郷前より太ってる そして何と言ってもその表情だウシ

あの獣のようにギラギラしていた眼はもうどこにもない なんだか妙にのほほんとして、その年頃のほかの高校生となんら変わらない表情になった彼・・・

そうかあ、あの夏が終わると彼らの中の”あるもの”も終わるんだなあ・・・ほかの選手たちもほぼ一様に同じような状態になって帰ってきた

 

ただ、その中に数名だがあのときの表情と気合を残したまま戻ってくる者たちもいた2トレーニング

すでに引退してグランドにも行けなくなった彼らは、それでも自主的にトレーニングを重ねている 相変わらず真っ黒でギラギラした眼で 大学野球や社会人野球を目指す彼らの夏はまだまだ 終わってはいなかったのだ

 

 

 


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