Quantcast
Channel: ジミー矢島の日記 | 高円寺ライブハウス ペンギンハウス
Browsing all 1248 articles
Browse latest View live

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  6

最初の日から、私はとにかく声が良い、と言われた、自分でもそうかもしれない、と思った、その店は高級な音響機材とマイクを使っていた。東中野のそれがいかにひどいマイクセットだったのかという事もわかった。 ドイツ製の高いマイクで歌うせいか、私の「声」はものすごく評判が良かった。澄んだ高音から低い地声まで、自由自在に出せるような気がした。 「君の声は、ドラマティックソプラノというのだろうね」...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  7

ある晩、彼女は何を思ったのか、私達が「ドンカマ」と呼んでいるリズムマシーンを物すごい早さの8(エイト)ビートにして、バッハの何声…何声だったのかは忘れてしまったが、とにかく難しそうなクラシックを8(エイト)ビートに乗せて弾きまくった事があった。店中総立ちになった、ブラボー!の声が湧き起った。...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  8

それから二ケ月後、私達一家は引っ越した。 西武池袋線の富士見台という駅、徒歩三分にある小さな一軒家だった。六畳、四畳半、DK、それに古い家だけれど、何と、お風呂まで付いていた。私は生まれて初めてお風呂のある家に住める事になったのだ。家賃は月三万円…充分払える額だ。...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  9

私の「詐欺師神経症」はレパートリイが増えるのに正比例してひどくなっていった。若いお客の中には学生時代バンドをやっていたという人もいた。そういう人の中で性格の悪そうな奴は、わざわざ私の歌っている隣までやってきて、私の歌っている真っ最中、大きな声で、「あっ!二拍吐いた、あっ!食った、デタラメ歌ってるよこいつ、良く金取れるよね、こんなヒドイ歌でさ、最近の女は図々しいっていうけど、ここまでっていうのはめずら...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  10

「かけもち」、というのは二軒の店を三十分毎に往復して稼ぐ事で、ナイト、というのはそれが終ってから、夜明け近くまでやっている店で夜中から音出しをして四ステージ歌う事だった。 「星さんは一ケ月どのぐらいギャラもらってるんですか?」 私は訊ねた。 「うん、今月はかけもちとナイトをやってるから、四十五万位かな…」 「ヒエー!すごいですね、そうすると一軒十五万位貰えるんですか?」 「うん、大体そのくらいだね」...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  11

私は八ケ月でバイエルをあげた。そしてすぐに友人の紹介でジャズピアノの先生についた。...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  12

仕事は楽で、むしろたのしかった、お客はみんな素朴そうな人達で、私の歌で本当に楽しそうに踊り、私のギターで次々に歌った。その店で、初めて私は前にいた銀座の店が、いかに、色々な意味でものすごいテンションの高い所だったのか、つくづく思い知らされた、前の店ではまずお客が、オーナーが、マネージャーが、バーテンダーまでもが私の歌を批判し、批評し続けていた。...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  13

その店は錦糸町の、クラブとか何とかサロンとか飲み屋とかが何軒もかたまってある一画の中にあった。地下一階で、二十坪程の広さだっただろうか?内装は古ぼけて、ソファはところどころ擦り切れ、何だか店全体が疲れ果てている…そんな感じがした。...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  14

「あなた、ピアノか何か習っているの?」私は訊ねた。絶対何か習っているに違いなかった。 「いいえ、ピアノじゃなくて歌を習ってるんです」 「どの位習っているの?」 「私、歌手になりたくて、高校出てすぐに東京に来たんです、それからずっと、いろんな先生についたんですけど、今習ってる先生がレコード会社にすごく顔のきく人で、もうちょっと頑張れば、その先生の作曲で、有名な作詞家の人に詞をつけてもらえるんです」...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  15

ミツコは一応雪乃派に所属しているらしかった。けれど彼女一人は他のホステスとは違って、絵理菜派に対して別に何の悪意も持ってはいないようだった。 そんなある日、お客がけっこう入っている時だった、絵理菜さんがふと思いついたようにマイクを握った。 「先生、一曲歌わしてよ…」...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  16

翌日店へ行くと、彼女達は相変らず熱心に対立していた、私はカウンターでマネージャーにそっと訊ねた。 「あの人たち、一体何で、何が原因であんなに仲が悪いんですか?」 「それが、僕にもさっぱり解らないんだよ。ただ、ずい分前からずっとああだけどね、まあ、お客が入ってくればふつうにしててくれるから」 私は絵理菜さんに声をかけた。...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  17

「絵理菜さん…ギターとか弾く気ありませんか?私で良かったら毎日早い時間に教えますけど…むろんタダでいいですけど」 「別にいいよ、そんな、あたし面倒なことキライなんだよ」...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  18

「あの……先生……ちょっと、」 ミツコが近寄ってきた。 「なあに?」 「お金、少し貸して頂けないでしょうか?」 「お金?いくらぐらい?」 「本当は五万円ぐらいなんですけど、二万でも三万でもいいんですけど…」 「何に使うの?そのお金」 「あの…私の先生が今度○○レコードのディレクターに会わせて下さるっておっしゃるんです」 「へえ、いいじゃない!でもそれとお金と何の関係があるの?」...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  19

二日後、絵理菜さんが私に小さな紙切れを渡した。それには、「ピアノ、ベース、ドラム、ギター、トランペット×2、トロンボーン、テナーサックス、アルトサックス」、とだけ書いてあった。 「これ、そのバンドの全員なの?」 私は聞いた。 「うん、それでそのトランペットの一人がバンマスなんだって」...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  20

数日して彼女はすぐにメロディを覚えた…私のわたした紙を持って、今度は彼女が歌った。最初「 ここは下町……」という所で間違えた。ここだけは仕方無く小節の頭からでなく、一拍休んで「ここは……」と出るように作ってあった。私はできるかぎりわかりやすく説明をくり返し、彼女は歌った…お客がくるまでの間中…。 「うるさくてたまんないよ、同じ歌ばっかし聞かされてさ!」 案の定雪乃さんがイヤミを言い出した。...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  21

「あの…それからですね、イントロと間奏は両方八小節にして、全く同じフレージングにして下さい。これ2(トゥ)コーラスしかありませんけど、そのあとサビから歌ったりしませんからそのままエンディングにして下さい。エンディングはなるべく派手に、何小節でもかまいません」 「何か変った注文だね…何でハーフやってサビ歌わないの?」 「いや…色々事情がありまして…」 「ふーん、そうなの…」...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  22

アレンジ譜が出来てきた。私はそれを必死で「解読」し、特訓を始めた。 「あのね、最初トランペットから出るからね、とにかく一二三四、二二三四、と数えて、四二三四まできたらもう一回同じように数えて、歌ってね、間奏も全く同じだから、同じに数えて二番歌ってね、じゃ、その通りの長さで弾くからね!」 絵理菜さんは表面いやいややっているように見えたけれど、「やる気」が出ているのは手に取るようにわかった。...

View Article


Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  23

七時ちょっと前、次々とバンドの人達がやって来た、私は彼に言われた通りにし、ダンスフロアの真ん前、一番前の席に座らせてもらった。すぐに演奏が始まった。歌謡曲をマンボとかルンバとかにアレンジした曲が続いた。私はてっきりジャズをやるのだと勝手に思い込んでいたので少し驚いた。...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  24

拍手ひとつ貰えず引っ込んだ彼女を追って私は楽屋に飛び込んだ。 「絵理菜さん!私の声聞こえなかった?」 「ああ、聞こえたよ…」 「じゃあ、何で二番歌わなかったの?」 「だって、格好悪いじゃない、途中から歌うなんてさ」 彼女はそう言ってタバコを銜えた。私は呆然として黙った。しばらくの間沈黙が続いた。...

View Article

Image may be NSFW.
Clik here to view.

仲田修子;ダウンタウンブルース  25

その店で仕事をするのはあと一週間足らず、という時だった。まだお客は一人も入ってこない…相変らず敵対する二つのグループは別れて座り、雪乃派の中でミツコが何やらはしゃいでいた。 「ミツコちゃん、どうしたの?何かうれしそうだけど…」 私は不思議に思って声をかけてみた、以前あんなに騙されて泣いていたのに、一体どうしたのだろう。 「ああ、先生、私、今度すごい『先生』に認められたんです!」...

View Article
Browsing all 1248 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>