僕の八ヶ岳話 9
清里駅から外に出て目の前に広がる駅前の光景を見て僕は自分の目を疑った そこには想定外のものがあったからだ 「・・・原宿?」 さっきまで広大な自然の中を走り抜けてきた列車が僕らを降ろしたのは標高1200mの確かに山の中腹だったはずだ ところが、今僕らが眼にしているのはまるで原宿かどこかのようなやたらとメルヘンチックでキッチュな建物、そしてその中を歩き回るおよそ山とは縁の無さそうな若い男女たちの姿だった...
View Article僕の八ヶ岳話 10
やがて僕らを乗せた車は脇道へ入った 驚いたことにそこも奇麗に舗装されてる 前来たときとは本当に驚異的な変化だ そして、クルマはその先で曲がりさらに狭い急な坂道を登った 登った先・・・そこだけが昔と同じような砂利道・・・かえって僕は少しほっとした しかし、ほっとするのも束の間でその砂利道に囲まれるように何軒もの全然日本的じゃない建物が現われた そのすべてが「ペンション」だった 「は~あ・・・」...
View Article僕の八ヶ岳話 11
その不思議な外観を持つ家の秘密は中に入って明らかになった 階段を上がりドアを開けると広いリビングダイニングがあった その天井は屋根までの吹き抜けになっていて高さが5メートルくらいあった それほど広くない部屋なんだけど、その天井の高さのおかげで見た目は広く感じる 部屋の一隅に梯子があってそれを登ると屋根にけっこう近いが「ロフト」になっていた 床下はだだっ広い収納スペースになっていた...
View Article僕の八ヶ岳話 12
僕がショックを受けたもの・・・それは・・・水 そう、またもや”水”なのだ! それにはこんなエピソードがある 清里駅に着いて迎えの車が来るまで少しあった 僕はどうしてもトイレに行きたくなって駅のすぐ前にある公衆トイレに入った 用を済ませて洗面所で手を洗った・・・その水が・・・とても冷たかったのだ! 「なんかこの水・・・美味しそう」...
View Article僕の八ヶ岳話 13
二泊三日の「バケーション」を終え僕らは帰路についた 車窓のむこう、段々小さく遠くなってゆく八ヶ岳を眺めながら僕の心の中にはある”決意”が生まれつつあった 三日ぶりに戻った浦安のアパ-トは熱気と湿気がこもってむんむんしていた 窓を開けても外から入ってくる空気も似たようなものだった 浄水器を通した水は匂いは無いが同時に味も無かった ただのH2O・・・ 明日からはまたあの満員電車に乗って仕事に通うのだ...
View Article僕の八ヶ岳話 14
「だ、だ、だからさ・・・ちょっと考えてみてよ あの雄大な山の景色、深い緑の森、涼しくて爽やかな空気・・・そしてあの”水”だよ!」 「何?水がどうしたの」 「オレさ、清里の駅でトイレに入っただろ あのときあの土地の水があまりにも素晴らしいんでショックを受けたんだよ! だってここの水・・・ヒドいだろ!」 かみさんはちょっと気勢をそがれた感じになって黙り込んだ...
View Article僕の八ヶ岳話 15
その日から僕は何度も何度もくり返しかみさんの説得に時間を費やした そしてついに彼女も渋々それを承知した さあ、じゃあ今すぐ行こう!・・・というわけにはいかなかった まず資金が要る 引越しと転居するためのさまざまなものが必要だった そのためにはこれからものすごく頑張って資金を貯める必要があった もうひとつ大きな問題があった それは・・・車 清里に家の周辺にはペンションはあるものの店が一軒も無かった...
View Article僕の八ヶ岳話 16
ところで皆さんは警備員の仕事についてどの程度ご存知だろうか 一口に「警備」と言っても大きくいくつかのジャンルに分かれる それぞれ呼び名も仕事内容も異なる 「施設警備」ショッピングセンターやテーマパーク、駐車場などの人が集まる場所や、住宅、ビルなどを警備する仕事 「輸送警備」主に現金輸送車の警備を担当します。他にも貴金属や核燃料など、襲われるリスクが高いものを警備する...
View Article僕の八ヶ岳話 17
そして夕方、今はどういうシステムになってるかは知らないが、当時は各現場に派遣されたガードマンはその日の仕事が終わったら必ず自分が所属する「支社」にそのことを報告することが義務付けられていた これを「下番(かばん)報告」と呼んでいた 当時は携帯など無かった時代だから、どこかの公衆電話か、その現場の電話機を借りてという形だった...
View Article僕の八ヶ岳話 18
当時僕が勤務していた「支社」には全部でおろそ200人近くの「隊員」が所属していた その一人ひとりと普段は電話だけでやりとりしてるのだが、声だけなので相手がどんな人物なのかはなかなか想像が出来なかった そこで僕はこうしたのだ 指令室には現時点で所属している隊員全員の名簿があった...
View Article僕の八ヶ岳話 19
この「合宿免許」・・・噂には聞いていたが、かなりハードなものだった まず教習所の教官たち・・・とにかくやたらと威張るのだ そのうえ、当地の方言いわゆる「甲州弁」なものだからそれにさらに高圧的なニュアンスが加わるのだ 「へ、おめ!なんしてるだっ! ほうじゃねえって言ったじゃんけ!!」 「そかぁ右じゃねえ!左だっち言うてるだ!ばかたれ!!」 もう日常的に毎日こう怒鳴り付けられるわけだ...
View Article僕の八ヶ岳話 20
2週間の教習が終わっていよいよ「仮免許」のテスト ところが僕はここでいきなりミスをやって失格! 結局次の仮免テストまで1週間あったので一度家に戻り、次の週また出なおした 最初のときに居た教習生は全員「卒業」してたので、部屋の顔ぶれがすっかり変わっていて例の「レベッカ」大好きな若者も居なくなっていた 僕は皆より”先輩”なのでちょっと「牢名主」みたいな立場になっていた(笑)...
View Article僕の八ヶ岳話 21
さて、足掛け3週間をかけた僕の教習所暮らしもようやく終り再び東京での仕事に戻った ずいぶんと休んでしまったので、その分を取り戻すためにもまた「日勤・夜勤」のくり返し・・・季節はもう冬になっていた 夜中の靖国通りのちょうど靖国神社のまん前の地下鉄の工事のための車線規制の警備業務についた時は、もう本当に疲れと眠気でフラフラになりながら現場に立っていた...
View Article僕の八ヶ岳話 22
その車は「スズキのキャリー」というワンボックスカーだった 「キャリー」は多分現在でもスズキ自動車の中でも販売台数がトップになってる人気車だ とくに「キャリートラック」は今でも地方の農村に行けば必ず見かける それだけ性能が良く使い易く丈夫だ・・・ということが人気の理由なんだと思う 僕はさっそく弟の車に同乗さっせてもらってその車を販売していた環状7号線沿いの中古販売店に向かった...
View Article僕の八ヶ岳話 23
ただ2サイクルエンジンにはいくつかの問題点があった まず「音がうるさい」 もちろんマフラーが付いてるので暴走族のバイクのような音ではないのだが、ボボボボボ・・・という独特の音だ そして「燃費が悪い」これは2サイクルエンジンの一番の弱点で、エンジンンの中に前の燃焼した排気ガスがわずかだが残ってしまうので、どうしても悪くなっちゃうのだ...
View Article僕の八ヶ岳話 24
僕はその中古車販売店の人に現金を渡した 整備費や諸経費などを含めて大体40万円・・・それまで「日勤・夜勤」を散々やった稼ぎはほとんどそれに消えてしまった しかし、その場でその車を持って帰るわけにはいかない 軽自動車とはいえ「名義変更」「税金」など色々な手続きが必要で、その車が我が家に来たのは結局その1週間後・・・ 行きは弟の車で乗っけてもらい、帰りは自分で運転して・・・家に戻った...
View Article僕の八ヶ岳話 25
インターから降りその現場に向かった そこは埋立地の海岸のすぐ近くに作られた大きな建築資材置き場だった まだ始まっていないのだが、そこに大きな建造物が造られることになっていた ただ、その現場に着いて僕はある失敗をしたことに気がついた 急いでいたので弁当を持って来てなかったのだ...
View Article僕の八ヶ岳話 26
年が開け相変わらずせっせと働き続けて、なんとか新居への引越しのためのわずかばかりの資金も貯まりかかってきた いよいよその年の春に僕らは八ヶ岳に引越すことに決めた 警備会社での勤務もあと2ヶ月弱・・・その夜も僕は指令室での勤務についていた その頃、ひとつの問題が起きていた 山手線の「大崎駅」の近くに大きな跨線橋がかかっていてその改修工事にうちの支社から4人の隊員が派遣されていた...
View Article僕の八ヶ岳話 27
警備会社のオフィスにはわずかだが布団のセットがあった それはたまに「支社長」なんかが飲み会などで家に帰れないときに事務所に泊り込むために用意されてたものだ 僕はその布団一式を抱えると自分の車に積み込んだ 僕の「キャリー」は4ナンバー(商用車)だったので、後ろの座席を畳むと、ちょうど布団を敷けるスペースが出来た そして僕は真夜中の国道を大崎目指して運転した 車は20分くらいで現場に到着した...
View Article僕の八ヶ岳話 28
3月下旬・・・いよいよ引越しの日になった 僕らの家財道具はそれほど多くは無かったが、それでもさすがに「キャリーちゃん」にはとても積みきれる量では無かった そこで友人で映像関係の仕事をしている者が大型のワンボックスカーを持っていたので、彼に頼むことにした 報酬は清里1泊と酒と料理・・・快く引き受けてくれた...
View Article